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電離層

\(\def\bm{\boldsymbol}\)\(\def\mb{\mathbf}\)\(\def\di{\displaystyle}\)\(\def\ve{\varepsilon_0}\)\(\newcommand{\pdr}[2]{\dfrac{\partial #1}{\partial #2}}\)\(\newcommand{\ppdr}[2]{\dfrac{\partial^2 #1}{\partial #2}}\)
気体分子の衝突でプラズマを調べていたら、電離層関係の資料が出てきたので、少し纏めてみる。

1. 地球電離圏


 地球電離圏は,太陽からの極端紫外線(Extra Ultra Violet: EUV)放射によって部分電離された地球の超高層大気領域である.\(60\sim 800\)km程度の高度範囲に存在し,国際宇宙ステーションや低高度を周回する人工衛星は,電離圏の中を飛翔している.電子密度および中性大気密度の鉛直構造を次に示す.


 \(300\)km付近に現れる電離圏のピーク高度では電子密度が \(10^{11}\)から\(10^{12}\)m\(^{-3}\)程度にまで達するが,中性大気の密度は同高度で\(10^{15}\)m\(^{-3}\)程度であるため,地球電離圏はもっとも濃い部分ですら\(0.1\%\)程度が電離しているに過ぎない弱電離プラズマであると言える.このため,地球電離圏では,電離大気が背景に存在する中性大気と運動量,熱量の交換を行うことにより,完全電離プラズマ中では見られないような物理過程が生じる.

また,地球電離圏は,特に高緯度領域において,その上部に広がる地球磁気圏と磁力線を介して結合しており,磁気圏からの電場の投影,および荷電粒子の降下によって大きく影響を受けることになる.

2. 酸素の電離


酸素分子は以下の工程でイオン化する.

\((1)\,\,\mathrm{O}_2\,\to\,2\mathrm{O}\hspace{18mm}5.12\,\,\)[eV]
\((2)\,\,\mathrm{O}\,\to\,\mathrm{O}^++\,e\hspace{10mm}13.62\,\,\)[eV]
\((3)\,\,\mathrm{O}_2\,\to\,\mathrm{O}_2^++\,e\hspace{8mm}12.07\,\,\)[eV]

ここで、\(\quad h\nu=h\dfrac{c}{\lambda}=E\,\)
から光反応の波長を計算する.

\(\,h=6.626\times 10^{-34}\,\,\)J・s\(\qquad c=2.998\times 10^8\,\,\)m/s\(\qquad e=1.602\times 10^{-19}\,\,\)C\(\qquad\)より
\(\,\lambda\,\)[nm]\(\,\times\,\)E [eV]\(\,=1240\quad\)となる.よって各反応の光の波長は

\((1)\,\,\mathrm{O}_2\,\to\,2\mathrm{O}\hspace{18mm}5.12\,\,\)[eV]\(\qquad 242\,\)nm
\((2)\,\,\mathrm{O}\,\to\,\mathrm{O}^++\,e\hspace{10mm}13.62\,\,\)[eV]\(\qquad 91\,\)nm
\((3)\,\,\mathrm{O}_2\,\to\,\mathrm{O}_2^++\,e\hspace{8mm}12.07\,\,\)[eV]\(\qquad 103\,\)nm


 この図は大気圏の高度と酸素の反応と光の波長を示したものです。ここでは触れないが、オゾンの生成・消長が高度によって変わる関係を表している。

 右端は高度による温度変化を表したものである。
 
 

 
 
 
 酸素プラズマの温度と各粒子の組成の関係を表したものである。

 左端は\(\,5000\,\)K からであるが、この温度では酸素原子状態が大半である。\(8000\,\)K 位から、\(\mathrm{O}^+\,\)が増加してくる。
 
 \(20000\,\)K 位から、\(\mathrm{O}^{++}\,\)イオンが増加してくる。

 熱圏での温度は\(\,1500\,\)K 程度なので、\(\mathrm{O}\,\)と\(\,\mathrm{O}^+\,\)が卓越している状態。
 
 
 
 
 
 

 酸素分子とオゾンの紫外吸収スペクトルを示す。

 前述したように、酸素分子は紫外域で励起され、解離&電離などの反応で、オゾンを生成する。
 生成されたオゾンは紫外域全体に強い吸収を示し、熱圏の温度を高めている。

3. プラズマ振動

 電子とイオンが混ざり合った一様な状態があるとしよう。そこである電子のクラスター(塊)が少しだけ空間的変位すると、それらは他の電子、イオンにより反対方向の力を受けるであろう。すなわちバネの運動と同じように振動することが期待される。これはいろいろなプラズマで観測される典型的な振動であり、プラズマ振動と呼ばれる。

 平衡状態ではイオンと電子が一様に分布している。ところが何らかの原因で、それらの成分の分布に乱れが生じると、ある場所の電子の分布密度が変化する。このときイオンは電子に比べて重いので動かないものとする。


 さて電子が集合すると、電子間にはクーロンの斥力が作用して、もとの平衡点に戻ろうとする。しかし、電子には慣性があるため、その平衡点から行き過ぎて別の場所の密度分布が大きくなってしまう。こうしてプラズマ内の分子は振動する。

 問題を簡単にするため、一次元で考える。左図の\(\,x\,\)点にあった電子が、その平衡点から\(\,s\,\)だけ変位し、また同じ時刻に\(\,x+\mathit{\Delta}t\,\)の点にあった電子は\(\,s+\mathit{\Delta}s\,\)だけ移動したとする。するとはじめ\(\,\mathit{\Delta}x\,\)の間にあった電子群は、\(\mathit{\Delta}x+\mathit{\Delta}s\,\)の間に移動することになる。電子の数は保存するから以下の式が成り立つ。

\(\qquad n_0\mathit{\Delta}x=n(\mathit{\Delta}x+\mathit{\Delta}s\,)\qquad\cdots\,\)(1)

ここで\(\,n_0\,\)は平衡の状態の電子の平均数密度、\(n\,\)は移動後の平均数密度である。(1)から

\(\qquad n=\dfrac{n_0}{1+\frac{\mathit{\Delta}s}{\mathit{\Delta}x}}\simeq n_0\left(1-\dfrac{ds}{dx}\right)\qquad\cdots\,\)(2)

 空間内には、電子の他に動かない正イオンが平均数密度\(\,n_0\,\)で一様に分布しているから、空間内の電荷密度のズレ\(\,\rho\,\)は

\(\quad\rho=-en+en_0=n_0e\dfrac{ds}{dx}\qquad\cdots\,\)(3)

 ガウスの法則は以下のようになっている。
\(\qquad \mathrm{div}\,\bm{E}(\bm{x})=\dfrac{\rho(\bm{x})}{\ve}\qquad\cdots\,\)(4)\(\qquad\)なので

\(\qquad \dfrac{dE}{dx}=-\dfrac{n_0e}{\ve}\dfrac{ds}{dx}\qquad\cdots\,\)(5)

 これを\(\,x\,\)について積分すると、場所\(\,x\,\)に生じる電場は

\(\qquad E(x)=\dfrac{n_0e}{\ve}s-C\qquad\cdots\,\)(5)
 ここで、電子の平衡点からのズレ\(\,s\,\)が\(\,0\,\)のとき、電場は\(\,0\,\)であるから\(\,C=0\,\)である。
このとき電子の運動方程式は

\(\qquad m\dfrac{d^2s}{dt^2}=-eE=-\dfrac{n_0e^2}{\ve}s\qquad\cdots\,\)(6)

 つまり電子は角振動数\(\,\,\omega_p=\sqrt{\dfrac{n_0e^2}{\ve m}}\,\,\)で振動する。この\(\,\omega_p\,\)をプラズマの特性振動数という。
 電子の定数を入れると

\(\qquad \omega_p=\sqrt{\dfrac{n_0e^2}{\ve m}}=5.64\times10\sqrt{n_0[\mathrm{m}^{-3}]}\quad[\mathrm{s}^{-1}]\qquad\cdots\,\)(7)

 電離圏の電子密度は\(\,\,10^{11}\sim 10^{12}\,[\mathrm{m}^{-3}]\,\,\)なので、プラズマ振動数は数Mhz~数十Mhz となり、短波(HF)が反射されることで、地球の裏側への通信が可能となる。
 
 
 
 


参考資料

  • 宇宙天気ミニ講座・電離圏編:https://sw-forum.nict.go.jp/forum/2019/pdf/kouza_3.pdf
  • 古典的プラズマ振動について:加藤雄介研究室 https://webpark1378.sakura.ne.jp
  • 電磁気学演習:砂川重信 岩波書店 物理テキストシリーズ-5 2020年 第35刷